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2005/10/03

穴の前後

丸い穴が開いている。上の方に。頭の上の方に。体の延長線上にぴったりと乗る上の方に。つまり、直立している。つまり、見上げている。空が見える。そこから。明るい。雲が流れている。穴の向こうの様子がイメージとして現れてくる。頭の中に。目で捉えた情報を元に、イメージが形成される。つまり、頭の中に既に向こうの様子に近しいものが存在している。かつては、その穴の向こうにいた。それとも、話に聴いたことがあるだけなのか。それとも。いずれにせよ、全てがイメージに過ぎない。
手が届きそうだ。あと少し。それとも、そのように見えるだけなのか。あの穴の縁に手をかける。指先と腕全体に力を込める。腹筋と背筋を緊張させて体の上体の姿勢を固定する。少し足をばたつかせて反動をつける。腕を伸ばして、肘ぐらいまで穴の外に出す。まず右腕から。次に左腕を。すると、頭も穴の外に出る。そこに広がる景色とイメージはどのような関係にあるのか。しかし、これもイメージだ。手が届きそうだけれども、届きそうにすぎないような気がしてならない。すると、感情が揺さぶられる。涙が浮かび上がる。目の中に。もちろん。
脇の下で穴の縁を抱え込むようにする。その体勢で体を安定させる。上を眺めあげる。空がある。周りを見渡す。平面の上に様々なものが存在する。出るべきか出ないべきか。出ることが可能なのか不可能なのか。またしても途方に暮れる。左の脇の下で体を支える。右の手のひらを地面に押しつける。そのまま右肘を伸ばす。左の手のひらを地面に押しつける。そのまま左肘を伸ばす。その過程では腹筋に力を入れる。顔がゆがむ。両肘が伸びきった状態になる。そこで体を安定させる。右足を蹴り上げる。右膝を穴の縁にかける。右足首を穴の縁にかける。伸ばしていた両肘を曲げる。腹を穴の縁に乗せる。腹から胸にかけてを地面にぴったりとくっつける。そのまま回転するようにして、最後まで穴の中にいた左足を外に出す。
あの穴の向こうにあるもの。少なくともそれに似たものはいつしか見ていたような気がする。これほど、さわやかなものに感じたかどうかは不明だが。穴の縁に手が届きそうな気がする。手を伸ばせば。手を伸ばしたとたんに、その穴との距離感がはっきりしてくる。目測とは裏腹に、全く手が届かないような気がする。これもイメージだ。感情を煽る。少なくともこちらよりは。それとも、穴の向こうから誰かが手をさしのべてくれるかもしれない。すると涙が止まらなくなる。体中の力が抜ける、力を抜く。これもイメージだ。
走り抜けていく。もう二度と穴にはまりこんでしまわないように気を付けながら。途方に暮れて座り込む。広い空。広い平面。どこかに何かを作り上げてしまって。その中に隠れ続ける。隠れるのではない。穴の中とどのような差異があるというのか。穴の中であれば穴にはまりこむことを心配する必要はない。どこでも同じ。
穴が開いていた。足下に。のぞき込む。何も見えない。暗がり。目が慣れてくる。何かがある。はっきりとしない。穴の縁に腰掛ける。同時に両足を穴の中に入れる。両手で体を支える。反転する。ゆっくりと肘を曲げる。脇の下で穴の縁を抱え込むようにする。その体勢で体を安定させる。勢い余って体が落下する。穴の縁を指先で掴もうとする。掴みきれず穴の中に完全に入り込む。何も見えない。これもイメージだ。
偽りを演じ続けることが出来るように祈る。その共演者を捜す。共演者たちで全ての時間が埋まるように、過剰であればあるほどいい。不足すればするほど。そこはここ。

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