いくつものつぶやき
これは。空白のように。力を抜くと、どこまでも、吸い込まれてしまいそうで。街を歩く。地面を踏みしめる事も出来ないまま。誰が、なんといえば。常に信頼できる物に包まれているわけではない。常に信頼できない物に包まれているわけではない。説明が欲しいのか、答えが欲しいのか。しかし、何が説明に当たり、そして、何が答えに当たるのかさえ不明のまま。また、Aはうろうろとし始める。目的の場所など無いのだけれども、いや、無いが故に。
もうそれに、Aは慣れていたはずなのかもしれない。いかにして、それを堪え忍ぶかについては、もう十分すぎるほど把握しているはずではあるのだけれども。再びそれに出会うと、おろおろとする。山を登ると、いつか、下りはじめないと行けないときがある物なのかもしれない。それは、必ずしも谷底に向かっているわけではないけれども。それとも、それは、すり込まれた恐怖なのだろうか、その場所を知っている人間だけが知る。
耳元で音楽が響きはじめる。音量を上げる。思考が停止し始めるまで、上げる、どこまでも、しかし、未だに足りず、そして、止める。静けさがよりいっそう深まる。いくつものつぶやきが聞こえはじめる。そのつぶやきに耳を貸さないようにしようとするのだけれども、交代交代につぶやきが感情を乱していく。Aはただ、平静を装う。ただ、静止する。
またもう一度。何処までも、吸い込まれてしまいそうで。この角を曲がっていくしかない。所詮全ては過ちだったのだから。曲がったところで、何があるわけでもないのだけれども。しかし、そんな議論を続けてみたところで。そう、その通りだ。だから、Aは幻影を先に進める。実体とは別に。実体とは別の何かとして、それとも、それこそがそれそのものである物として。希望として、夢として、過去として、遺影として、隠れ蓑として。
そうして、AはAとA’とによって構成されるようになった。そのどちらが、どちらかなのかはどうでもいい事だから。AはAによって惑わされるようになる。そのことによって、最早外部環境によって惑わされる事もなくなるだろうと。いや、一体なによって惑わされているのかさえわかる無くなってしまうだろうと。すると、そこに現れるのは、真実なのか、それとも、全くの偽りなのだろうか。それでも、Aもしくは、A’が進んでいく。そのどちらかが、犠牲者となって、そのどちらかが、しかし、英雄になるわけでもなく。
分断されたそれらは、もはや、合流する事はないのだろうか。しかし、依然として、吸い込まれてしまいそうで。Aが、なのか、もしくは、A’がなのか。すると、スパイラルが、静止する事の出来ないスパイラルがそこに構成されてしまいそうな気がしてくる。無限級数へと発散しはじめる。時間が終わりを告げるまで。そう、きっとそうに違いない。収束するか、発散するかしかない。収束の道を歩く事の出来る存在があれば、発散するしかない存在もある。きっと、別にどちらであるべきかなどという事ではなくて。
だけれども、諦めが悪いのが、それが存在という物なのだろうか、Aは依然として、吸い込まれそうになる事に、それでも抵抗しようとして、そして、時に、AとA’に合流を求めてみる事がある。それが不可能な事なのか、それとも、可能な事なのかは、誰にも決める事はできないはずだと、そして、定める事の出来ない不安な未来に対しては、信じることしか方法はないのだと、Aはいくつものつぶやきを超えて、深くつぶやく。

