夜道
冷たい風。震えと、心地よさと。通り過ぎる音。そこにある音。光に照らし出された暗がりを、歩いて行く。考えるべきことが足りないのか。まるで、空腹であるかのように、落ち着きを失う。何を必要としているのか、何も必要としていないはずなのに。何かを要求している。何か、考えるべきことを要求している。
特に、目的地などはない。少しだけ、今日の夕食のための何かを買うことが出来れば、それ以上のものは必要とはしていない。この夜。いや、昼からずっと、手持ちぶさたなまま。何かを考えようとする。何を考えようとするのか。しかし、ただ、じっとするだけ。何かを変えるべく、しかし、何を変えるべきなのか。
このままで、いつまでも。それとも、大きすぎて、求めるものが、だからとても、その望みが達成される気がしないために。やるべきことは山ほどあるはずなのに、あまりにも大きい山であるが故に、登る気力がわかない。だから、他の何かを求める。その絶望感から逃れるために。だから、何か敵を探し求める、糾弾してしまえと。
だけれども、進むしかない。迷子になるかもしれないけれども。このままであっても、近づくことが出来ないのであれば、むしろ、遠ざかる危険性を覚悟で進むしかないのだろうと。道に迷ったことだけでも理解することが出来たなら、それで十分な成果なのかもしれない。
イルミネーションに照らされた広場を通り過ぎる。その華やいだ姿を、シニカルに捕らえながらも、その純粋な美しさに目を引かれる感情を否定することは出来ない。この程度で十分なのかもしれない。何を今更、そして、それは一体誰のために。私のためだけなのであれば、それはただ、諦めれば終わるだけの事ではないのか。
そして、その美しさを賞賛してみる。心のそこからではないと言うことを、見透かされてはいないだろうか。しかし、だからといって。その説明を理解することなどできないだろう。だから、精一杯ではなく、賞賛してみる。別のものを見透かしてもらうために。多重に嘘をついているのは、自分自身に向かってなのか。
遠のいていく。そう感じる。本当だろうか。むしろ、困惑している。あまりにものその大地の広さに。振り向かず、大地を一歩一歩進む。その進むための道を作るところから、足場となる階段を作るところから、よじ登るための手すりを作るところから。あまりにも、遠すぎると感じる。だけれども、あのときのように。
作り上げてきたものが、そこにはしかし、まだ存在している。すっかり、荒れている、以前よりも。そこにつぎ込んだ思いは、その荒れた外観以上に荒れてしまっている。何故、それを虚しさと捉えてしまったのだろうか。小さな足跡。それでも、何かの手がかりくらいは掴んだつもりではなかったのだろうか。
冷たい風。しかし、それから身を守るコートを、しっかりと羽織っている。十分摺りギルほど、考えるべきことはある。途方に暮れて、考えることを放棄したくなるほどに、考えるべきことはある。だけれども、次の手を打つことを、それが今やるべきことであって。しぼんだ感情を再び膨らませなければと、この夜道に思う。

