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2010/01/24

一つの呪文

 まっすぐに、重力の方向から軸を外さないようにして、動くときだけ、少し傾いて。だけれども、十分に間に合う速度で。だから、どこにでも行くことができる、そして、どこにでもとどまることができる。全てが、見事に完結している。
 ふと、寄りかかろうとすると。荷崩れを起こしてしまうかもしれない。あまりにも多くのものを抱えているが故に。もし、一度、それらをおろしてしまえば、もう二度と。もしかすると、うまく寄りかかる先があるかもしれない。希望など、信じているのであれば、その希望に、すでに寄りかかっているに決まっている。
 それほど、慎重になる必要などなくなっている、これだけの荷物を保持し続けることには。ときに少しの間だけ、なんらかのやむない事情で、それらをおろしたときに、そして、それを再度担ごうとしたときにだけ、ふらつきを感じる。安定しない数歩を経て、また、もとに戻る。心構えがあれば。
 時に、もう終わりにすることができるのかもしれないと思ってしまうときがある。長い道のりが、もし、そこで終わってしまえば。ことなる道へとつながるジャンクションを見つけたのであれば。突然に、ずっしりと、荷物の重みが増す。たかだか一歩さえも、ふらつきはじめて、体中が震える。さらに荷物の重みが増して、荷崩れの危険性が高まる。必死にこらえる。まだ、今のうちに、まだ、力の残っているうちに、荷物の整理をした方がいいかもしれない。
 ただ、静止する。まっすぐに、重力の方向から軸を外さないようにして、動くときだけ、少しから向いて。だけれども、十分に間に合う速度で。これが全ての言葉。全ての祈りの言葉であり、全ての呪文。
 振動は、どこからでも発生する。その重力を受け止めているはずの地面が、動き出すときもある。何かの引力によって、あるいは磁力によって、何かが励振されて自らが震動源になることもある。いずれにせよ、やっかいだ。その振動が、少しずつ荷物を安定位置からずらし始める。耐え難くなる。がたがたと。がらがらと。
 それとも、荷物が何一つ無いかのように振る舞って、震えていようとも、気にせずに、そのまま寄りかかってしまって。荷物が滑り落ちていくことも気にしないで、そこには、何もないのだから、いずれにせよ、目には見えない、概念にしかすぎないし、精神せかいにしかすぎない。失うわけではない。そもそも、所持していなかったのだから。何を所持しているのか、何を所持していないのか。何故、所持しているのか、それほど貴重なものなのだろうか、失ってしまっても、しかし、失うことすらできないものかもしれない、所持さえしていないものは、失うことができないのであれば。そう、失ってしまえるのであれば、それにこしたことはない。
 心を静める、振動はやがて、減衰していく、もし可能なのであれば、減衰しないままに共存すべきなのかもしれない。まっすぐに、重力の方向から軸を外さないようにして、動くときだけ、少し傾いて。

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