平地と崖
なぜ、この場所にいるのだろうか。そこに広がる世界は、むしろ、否定してきたそれでもあるようで。しかし、そこに存在してみる。確かに、悪くはない。悪くはない。
何故、このような場所を否定してきたのだろうか。いや、語るほどのことはない。理由なんて、特殊であることはほとんどない。言い訳による装飾が様々な亜種を生み出しているだけで、本来的な理由なんて、限られている。
風を受けて立つ。あの大広間の中に一緒に隠れていればいいはずなのに。何も信用はしていない、そこには、何も。苦しみが絞り出されてくるだけだ。そこで、何ともいえない風を受けるのであれば、ここで、風を受けている方がいいに決まっていると。
そこで、ただ生き延びる術を身につける。それとともに、多くの技を手にしながら。少しずつ、すり切れていくことを感じながら、それでもなお、そこにはもう、戻りはしないと誓ったのだから、そこには、もう何も期待しないと誓ったのだから。
地に墜ちていく。たたきつけられるように、そこから、また這い出す。何度も、何度も。ここに、こんな場所があるのだと、しかし、誰一人気づかない。いや、時に気づく人はいる。しかし、それは同類であるが故に。そして、そこには、いつも薄膜があった。その向こう側には、近くに感じるその薄膜の向こう側には、たどり着くことは、できないと、いつも痛感していた。だから、やはり、風を受けて立つ。
そして、やっとのことで、たどり着いた気がした。ずっと、崖にへばりつき、崖を登り続けてきた。ようやく、頂上にたどり着いたのかと思ったのだけれども、そこは、ようやく海抜ゼロメートルの位置に過ぎない場所だった。誰もが、ここから始まっていたのだと、広がる平地と時に太陽がゆっくりと照りつけるその時間とが、そこにはあって、ようやく気づく。そう、崖で汚れ傷ついた体にはとても、似つかわしくない光景が、何の不自由もなくそこに横たわっていて。
風が、いつも受けて立っていた風が凪いでいる。これが、その大広間なのかと。同じ場所の少し離れた場所にあると思い込んでいたのに、そこには、薄膜があるだけだと思い込んでいたのに、しかし、それは、これほどまでにしてなんとかたどり着いた場所にあっただなんて。だから、そこは、いつもすぐにでも届くと思いながら、決して届くことのない場所で。しかし、ようやくにして、たどり着いたのだと。
つまり、ただ、多くのものを失っていただけだったと。この場所から、始まる人たちもいるのだから、そこに向かって崖を登っている人のことなど、確かに、誰一人気づかないに決まっている、そこを必死に登っている、もしくは、いた、人以外には。
そして、振る舞う。最初から、この場所にいたのだと。汚れを落として、傷を隠し。いや、何故、そう振る舞うのかと、裏切りではないのかと。かつて、あれほどまでに信頼していなかったそれではないのかと。崖にいるとわからないことはある、平地にいるとわからないことはある。だから、今を必死に生きようと、言い訳じみているかもしれない。しかし、それ以外に方法論を見いだすことができない。

