言葉を並べる
ここに言葉を並べていくことにした。何を目的に。いずれわかるかもしれない。わからないかもしれない。とても平穏なので。今は、もう、時間が彼を追い越していくようなことはなくて、今は、十分すぎるほどゆったりと時間に浸っている。
窓を開ける、喧噪が入り込んでくる、少しばかりの。社会が彼の中に入り込んでくる。いや、彼が社会に入り込んでいく。それとも、これは、異なる時間なのだろうか、それとも、これは異なる社会なのだろうか。
そして、ここに言葉を並べていくことにした。何から思い出すべきなのだろうか。何を思い浮かべるべきなのだろうか。いや、しかし、何を並べればいいのだろうか。突然に訪れた静寂。もし、そこに例えば晴れ渡る、何か幻想的な景色でもあれば、そこへ向かって、猛然と進み始めることができるかもしれない。いや、あまりにも幻想に惑わされすぎているのだろうか。それとも、直視すべきものが何かというその、座標の感覚が、重力の感覚が狂いすぎているのだろうか。
これは、連続していることに違いはない。何かが、切り替わったわけではなくて、徐々に起きた変化が、彼をここに導いたにすぎない。窓を閉じる。少し、出かけようか。急ぐほどの用事はない。ただ、少しだけ時間をつぶせればいい。そう、なんてすてきな状態なんだろうか、時間にもはや追い回されるわけでもなく、一方で、時間を意識できないようなそれでもないとは。時間が、ここに溢れている。
何事もなく街を歩く人々の中に溶け込んでみる。なんて、平穏なんだと、やはり。だけれども、この中にも、きっと、彼のように何かを探りながら、そして、何かを隠蔽しながら、しかし、表面上はうまく繕っている人がいるに違いないと。それとも、そんな人だけしかいないのかもしれないと、そう思いながら、彼はちょっとしたくつろぎを感じようとする。しかし、うまくはいかない。どうも、これはあまりにもなれていない光景であって。もしかすると、負の符号に負の符号をかけると正の符号に転換するようなことを期待して、大きな負の反作用としての大きな正を期待しすぎていたのかもしれない。だけれども、実際には、かけ算は行われずに、ただ、ちょっとした足し算が繰り返されただけに過ぎないのだろう。
彼の足取りの後に残されたものは何か、彼の足取りの先に見えるものは何だろうか。それを、追いかけていかなければならない。始まりの方へ向かって、そして、終わりの方へ向かって。それは、今を知ることから始めるべきなのかもしれない。彼が、今、歩いている、町中を。特に、目的があるようには感じられない。そもそも、彼について知ろうとすることに、一体どのような目的があるのだろうか。目的は、そもそも、消尽すべきものであるのかもしれない。しかし、それでも依然として残存するものがあるということが、つまり、彼が今ここに存在すると言うことであろうと。
彼は、その、ちょっとした外出から戻ってきた。再び隔絶した世界の中に戻る。彼は、何らかの可能性を感じたのだろうか。ここから、始まる、始めようと。そして、言葉を並べることを始める。そこから、新たな可能性が始まる。

