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2009/05/24

そして、ここから

 向こう側に、それともこの場所に。いや、どちらともに。静けさだけが広がる。とどまろうとしても。進もうとしても。もはや、そのどちらもなくて。一人、その大地の真ん中に。すべてが消えてしまった。もう、何も邪魔するものはない。ただ、選択だけ。ただ、自分自身の選択だけ。
 ついにすべてが、消えた。Aはつぶやく。何もなくなった、この場所に。だから、どこにまでも行くことができる。どちら側にも行くことができる。誰も邪魔しない場所。そこに築き上げれば、それでいい場所。そう、場所だけが、ここに残されている。
 そして、人々がそこを行き交う。いくつもの流れが、そこに生まれては消えていく。そして、その流れのどれも、Aを阻みはしない。疲れを感じれば、少し休めばいい。まだまだ、進もうというのであれば、気にせずに進み続ければいい。Aには、恐ろしいほどの自由だけが残されている。
 崖を登り続けていた、どこまでも、どこまでも続くとも思われるそれを、登り続けていた。いつも、そのまま転落してしまうことにおびえていた。だから、しがみ続けていた。いつの間にか、体は疲れ果てていたようにも思う、もう限界だとなんどもつぶやきながら、それでも、登り続けた。そして、何度かは、滑落も味わったけれども、そのたびに、なんとかしがみつけた。まだまだ、幸運は残っていると、そして、つぶやいた。また、登り始めた、登るしかなかった。少しずつ、本当の限界が見え始めた気がした。
 それとも、ここは天国のようなそんな場所なのだろうか。それとも、ついに幻しか見えなくなってしまったのだろうか。突然、崖ではなくなったかのようで。突然、平面しかない世界に移動したかのようで。登る必要性はなくて、歩くことができる。それも、どの方向に向かってでも、あまりにも自由だ、そして、あまりにも手持ちぶさただ。
 ついにすべてが、消えた。Aはつぶやく。歓喜に走り出すべきなのか、それとも、これは何かの終焉だと感じて、落ち込むべきなのか。
 しかし、Aは落ち着きをすぐに取り戻した。書いたことのない、書く必要のあったことがない地図を、書き始めた。ついにここから始まるのだと。こここそが、待ちに待った瞬間であるのだと。そう実感し始めると、どっと疲れが出てきた。崖で蓄積し続けた疲れが、押し寄せてきた。少しの間まどろみ、そして、深い眠りに落ちていった、これが、まるで初めてでもあるかのように。
 Aは起き上がった、そして、歩み始めた。そのどちらでも行けそうなその場所に、だけれども、しっかりと目標を見据えて。

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