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コレラ時代の愛

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現代を代表するコロンビア出身のノーベル賞作家、ガルシア・マルケスの”コレラ時代の愛”。

初恋の人を求めて。ある男。そして、その相手の女性は、やがて世間的にもすばらしい人物と結婚して。そして、その夫が亡くなったとき、お互いにずいぶんと年を取ってしまっていた。51年と9ヶ月と4日。女性は、その男のことはほとんど忘れてしまっていて、そして、男は他の女性との多くの関係を持ちながら過ごすのだけれども、結婚しないままに最後のチャンスを待ち続けていた。

その、最後の瞬間に向けて、この作品は、ひたすらに、この男の女性遍歴を中心とした出来事を記述する。そして、その合間に、時々、その相手の女性の結婚生活が挟み込まれる。マジックリアリズムと呼ばれるが所以の、その誇張された、しかし、誇張されているにもかかわらず、ある種のリアリズムを保持したままの物語が綴られる。その時々の感情に従って生きて、そして、その時々に多くの事を感情として受け取る人間の様子を、感傷によって描くのではなくて、感情のままに描かれていく。感傷は、自己愛と自己憐憫が多くを支配しすぎていて、他者からみれば、とても心地よい物とはいえない。この作品が、とても感情に食い込んでくるのは、この男の片思いを感傷によってではなくて、感情の変化によって描いているが故だと思う。

人は、感情の上に感情を重ねながら生きていく物だと思う。ある感情に支配された行動が、別の感情を誘発して、そして、さらに、それが。ただし、その端緒となった感情だけには、ぶれが無くて、つまり例え、木の枝はが高く広く伸びていったとしても、その根幹は同じところに依然としてあるかのように。

だから、決して、この男は、その年まで、惨めな人生を送ってきたわけではない。一方で、その相手の女性も、その年まで、ひたすらに幸福に包まれた人生を送ってきたわけでもない。ただ、それぞれが、それぞれに、それも一つの、そして、よくある人生である。そう、最後の瞬間に、その二人がもう一度出会うという事さえなければ。

その相手の女性の夫が亡くなる。手紙が送られる。感傷に包まれたそれは、むしろ否定されるのだけれども、冷静な分析によって成り立ったそれは、受け入れられる。感傷は、独りよがりの物なのかもしれない。冷静な分析を、しかし、受け入れることが出来るようになる感覚とは、それは、それで、多くの感情を経た結果なのかもしれない。

そして、船旅に出る二人。遂に結実する。これをどう捉えればいいのだろうか。夢物語に過ぎないのか。どこかに人が持っているかもしれない、けれども自分でさえも裏切ってしまう、純粋さへの憧れなのだろうか。最後の結末がぼやかされている様子についても、これもまた、捉え方を困難にする。これは、やはり夢物語なのか、しかし、そうではないと、そこにある、感傷を超えた感情のリアルな物が存在するのではないかと。

人は、満たされることは無いことを受け入れたときに、何かを受け入れることが出来るようになると思う。受け入れられなかったが故に、決して受け入れない恋愛に多くの時を過ごした男。受け入れたつもりなのだけれども、決してそれによって何かを受け取った訳ではなかったと感じ続けた女性。薄膜がそこに常に存在することをお互いに受け入れあった結果ではないのかと、そのように捉えたくなるのは、私の思い込みかもしれない。

あまりにも、冷たく、分析的で、あまりにも、熱く、感情的で。読む事に、何かが、感情の方面を流れるのではなくて、奥深くまでしみこんでいくのがわかる。なんという、文章なのだろうかと。

全体を捉えての感想は、上記のとおり。その他に、さすがガルシア・マルケスと思わせるのは、所々の文章が、痛いほど的確に感情を捉えているという点。これは、多くのガルシア・マルケスの作品にみられて、何故これほどまでに感情を的確に表現できるのだろうかと驚かずにはいられない。そして、さらに、面白いのは、しばらくした後に、それとは時に正反対と思えるほどの感情の表現が出てくるところ。この感情の変化の柔軟さを捉えているあたりも、とても印象に残る。

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